卸売・商社では、顧客からの見積依頼や在庫・納期確認が、メール、電話、FAXなど複数の経路から届きます。
問い合わせを受けた営業事務担当者は、商品を特定し、顧客ごとの価格条件を確認し、販売・在庫管理システムで在庫を調べ、必要に応じて営業、仕入、倉庫へ確認しなければなりません。
その結果、問い合わせ件数が増えると、回答の遅れ、担当者への業務集中、確認漏れなどが起こりやすくなります。
本記事では、産業用部品を扱う専門商社を想定し、業務全体を確認したうえで改善対象を選び、既存の販売・在庫管理システムとGoogle Workspace、AIを組み合わせる業務改善の流れを紹介します。
実際の支援では、企業規模、商品特性、取引条件、利用中のシステム、担当者体制に応じて、確認項目や改善方法を調整します。
1.想定する専門商社と相談内容
今回想定するのは、製造業や設備会社へ産業用部品・消耗品を販売している専門商社です。
| 項目 | 想定内容 |
|---|---|
| 業種 | 産業用部品・消耗品の卸売・専門商社 |
| 従業員数 | 約35名 |
| 主な顧客 | 製造業、設備会社、工事会社 |
| 主な業務 | 商品問い合わせ、見積、受注、仕入、在庫確認、出荷 |
| 受付経路 | Gmail、電話、FAX、問い合わせフォーム |
| 利用ツール | Google Workspace、Excel、販売・在庫管理システム |
| 主な相談 | 見積・在庫・納期確認の負担と属人化を改善したい |
| AI活用状況 | 個人利用はあるが、業務には未定着 |
販売・在庫管理システムは既に利用しています。
しかし、問い合わせを受けてから必要な情報を集め、回答するまでの業務は、メール、Excel、担当者の経験に依存していました。
主な悩みは次のとおりです。
- 見積や在庫確認の依頼が複数の経路から届く
- 商品コードが書かれておらず、商品特定に時間がかかる
- 顧客別価格や過去見積の確認方法が担当者によって異なる
- 在庫や納期について営業、仕入、倉庫への確認が必要になる
- 誰がどの問い合わせに対応しているか把握しにくい
- 担当者が不在になると回答が止まる
- AIを活用したいが、価格や納期を任せることには不安がある
この時点では、まだ見積・在庫・納期確認を改善対象と決めているわけではありません。
最初に、営業事務を中心とした業務全体を確認します。
2.業務全体から改善対象を選ぶ
卸売・商社には、問い合わせ対応以外にも、受注入力、仕入先への発注、出荷手配、請求確認、商品マスターの更新など、さまざまな業務があります。
そこで、主な業務について、業務量、属人化、顧客への影響、改善可能性などを簡易的に比較します。
| 業務 | 負担 | 属人化 | 顧客影響 | 改善余地 |
|---|---|---|---|---|
| 見積・在庫・納期確認 | 高 | 高 | 高 | 高 |
| 受注入力 | 高 | 中 | 高 | 中 |
| 仕入先への発注 | 中 | 中 | 高 | 中 |
| 出荷状況の回答 | 中 | 中 | 中 | 中 |
| 請求確認 | 中 | 低 | 中 | 低 |
見積・在庫・納期確認は、件数が多いだけでなく、回答速度が顧客満足や受注機会にも影響します。
また、商品知識、顧客別条件、仕入先との関係など、特定担当者の経験に依存している部分も多くありました。
そのため、最初の改善対象として、既存顧客からの新規の見積・在庫・納期に関する問い合わせ対応を選定します。
一方、次のような案件は初期の対象外とします。
- 新規顧客の与信判断
- 特別値引き
- 特注品や大口案件
- 輸入品など納期が不確定な商品
- 返品・クレーム
- 仕入先との価格交渉
- 納期の最終確約
- AIによる価格決定や自動受注
対象範囲を限定することで、無理にすべてを自動化するのではなく、安全に検証できる範囲から改善を始めます。
3.現在の問い合わせ対応で起きている問題

現在の業務は、次のような流れになっていると想定します。
- 顧客から見積・在庫・納期の問い合わせが届く
- 営業事務担当者がメール、FAX、電話を確認する
- 顧客名、商品名、数量、希望納期を読み取る
- 商品コードを特定する
- 顧客別価格や過去見積を確認する
- 販売・在庫管理システムで在庫を確認する
- 必要に応じて営業、仕入、倉庫へ確認する
- 回答内容や見積書を作成する
- 必要な案件は営業や上長が確認する
- 顧客へ回答する
この流れを整理すると、次の問題が見えてきます。
問い合わせが複数の経路に分散している
メール、電話、FAXから依頼が届くため、受付状況を一覧で把握できません。
担当者が個別に管理していると、回答漏れや重複対応が起こる可能性があります。
商品の特定に時間がかかる
顧客が商品コードではなく、通称、旧型番、仕様、用途などで問い合わせることがあります。
ベテラン担当者でなければ、どの商品を指しているのか判断しにくい状態です。
顧客別価格や取引条件の確認が属人化している
販売管理システム、過去見積、Excel、営業担当者への確認など、情報の参照先が統一されていません。
そのため、同じ商品でも担当者によって確認方法が異なります。
在庫・納期の確認で部門間の往復が発生する
販売管理システム上の在庫だけでは回答できず、入荷予定、引当状況、仕入先回答などの確認が必要になる場合があります。
営業事務、営業、仕入、倉庫の間で確認が繰り返され、顧客への回答が遅れます。
対応状況が見えない
誰が対応しているのか、顧客への回答が済んでいるのか、社内確認中なのかを一覧で確認できません。
管理者も、問い合わせの滞留や回答遅延を把握しにくい状態です。
4.業務を整理して決めた改善方針
問題を確認した後、すぐにAIを導入するのではなく、現在の業務そのものを見直します。
今回の改善方針は次のとおりです。
問い合わせを一覧で管理する
メールやフォームから届いた問い合わせを、問い合わせ管理表へ登録します。
管理表では、顧客名、商品、数量、希望納期、担当者、ステータスなどを一覧で確認できるようにします。
必要な情報を共通項目にする
問い合わせ時に確認する情報を、次のように整理します。
- 顧客名
- 商品名・商品コード
- 数量
- 希望納期
- 問い合わせ内容
- 見積の要否
- 不足している情報
自由形式のメールで届いた場合も、AIがこれらの項目を抽出し、分からない情報は不足項目として示します。
正式な情報源を明確にする
価格、在庫、入荷予定などの正式な情報は、既存の販売・在庫管理システムから確認します。
AIが価格や納期を推測することはありません。
標準案件と例外案件を分ける
登録済み顧客、標準商品、通常価格など、一定の条件に該当する案件は標準フローで処理します。
特別値引き、特注品、廃番品、大口案件などは、営業や上長の確認が必要な例外案件として分けます。
AIを使う範囲を限定する
AIの役割は、次の範囲に限定します。
- 問い合わせ内容の要約
- 顧客名、商品、数量、希望納期の抽出
- 商品コード候補の提示
- 不足情報の抽出
- 問い合わせ分類の候補提示
- 顧客への確認メールや回答文の下書き
価格、在庫、納期、値引き、取引条件の最終判断は、人と既存システムが行います。
5.改善後の問い合わせ対応

改善後は、次のような業務フローを想定します。
- 顧客から問い合わせメールまたはフォームを受信する
- Google Apps Scriptが新規問い合わせを検出する
- AIが顧客名、商品、数量、希望納期などを抽出する
- AIが問い合わせ内容を要約する
- 問い合わせ管理表へ自動登録する
- 営業事務担当者が内容を確認する
- 商品コードや顧客情報を確定する
- 販売・在庫管理システムで価格、在庫、入荷予定を確認する
- 標準案件か例外案件かを判断する
- 標準案件は回答案または見積案を作成する
- 例外案件は営業、仕入、倉庫、上長へ確認する
- AIが顧客への返信下書きを作成する
- 担当者が内容を確認・修正する
- 人が顧客へ回答する
- 問い合わせ管理表のステータスを更新する
- 受注した場合は、既存の受注処理へ引き渡す
この仕組みの中心は、AIによる自動回答ではありません。
問い合わせに含まれる情報を整理し、担当者が正しい情報を確認しやすくすることが中心です。
人・自動化・AI・基幹システムの役割

| 役割 | 主な担当 |
|---|---|
| 人 | 顧客・商品確認、価格・在庫・納期判断、例外判断、最終送信 |
| GAS・通常自動化 | 新着検出、管理表登録、通知、ステータス連携 |
| AI | 要約、情報抽出、候補提示、返信下書き |
| 販売・在庫管理システム | 正式な顧客、商品、価格、在庫、受注情報 |
既存の販売・在庫管理システムを置き換えるのではなく、その前後にある手作業や情報整理を改善します。
6.最初のPoCで確認すること
最初から受注前業務全体を自動化するのではなく、登録済み顧客からの標準商品に関する問い合わせに限定して試します。
PoCでは、次の仮説を検証します。
AIによる問い合わせ内容の整理、必要項目の抽出、商品候補の提示、返信下書きによって、見積・在庫・納期確認の初動時間を短縮しながら、回答品質を維持できるか。
主な確認項目は次のとおりです。
- メールの内容を把握する時間が短縮したか
- 顧客名、商品、数量、希望納期を正しく抽出できたか
- 不足情報を正しく判断できたか
- 商品候補が実務上の参考になったか
- 回答文の下書きが利用できたか
- 部門間の確認回数が減ったか
- 誤った商品、価格、在庫、納期を案内しなかったか
- 担当者が継続して利用できる操作だったか
PoC後は、必ず本導入するわけではありません。
結果によっては、次のような判断も考えられます。
- 対象業務を限定して導入する
- AIは要約と情報抽出だけに利用する
- 商品候補の提示は見送る
- GASによる受付・管理・通知だけを導入する
- 商品マスターや業務ルールを整備してから再検証する
- AI導入を見送る
PoCは、AI導入を正当化するためではなく、実務で利用できるかを判断するために行います。
7.この想定事例で重要なポイント
今回の事例で重要なのは、AIを使って見積や受注を自動化することではありません。
業務全体を確認し、顧客への影響、属人化、改善可能性などを比較したうえで、受注前問い合わせ対応を改善対象に選んでいます。
その後、現在の情報、判断、例外処理を整理し、既存の販売・在庫管理システムを正式な情報源として残したまま、AIと自動化を必要な範囲に配置しています。
特に重要なポイントは次のとおりです。
- 最初からAI導入を目的にしない
- 業務全体の中から改善対象を選ぶ
- 既存の販売・在庫管理システムを活かす
- 標準案件と例外案件を分ける
- AIに価格や納期を判断させない
- 人が最終確認と顧客への回答を行う
- 小さな範囲で検証してから対象を広げる
業務全体の棚卸し、改善対象の選定、現状業務の整理、AI・自動化の適用判断、PoC、本導入後の定着まで、企業の規模や状況に合わせて伴走します。
AIを導入すること自体ではなく、現場で継続して使える業務の仕組みを作ることが目的です。
業務整理 | 無料相談はこちら
↑こちら無料相談前の事前ヒアリングシートになります。シート記入後「送信」で完了します↑
問い合わせフォームはこちら
↑相談前にちょっとしたご質問などございましたらこちらへ↑


コメント