設備メンテナンス会社には、修理依頼、点検相談、見積依頼、納期確認、資料請求など、さまざまな問い合わせが届きます。
問い合わせを受けた事務担当者は、メール本文や添付ファイルを確認し、顧客や設備を特定したうえで、営業担当者や技術担当者へ連絡しなければなりません。
問い合わせ件数が増えると、特定担当者への業務集中、担当者への連絡遅れ、対応状況の見落としなどが起こりやすくなります。
本記事では、Google Workspaceを利用している設備メンテナンス会社を想定し、業務全体を確認したうえで改善対象を選び、問い合わせ対応にAIと通常の自動化を組み合わせる流れを紹介します。
実際の支援では、企業規模、対応設備、問い合わせの種類、利用中のシステム、担当者体制などに応じて、進め方を調整します。
1.想定する設備メンテナンス会社と相談内容
今回想定するのは、法人、工場、店舗、事務所などを対象に、設備の修理・点検を行っている会社です。
| 項目 | 想定内容 |
|---|---|
| 業種 | 設備メンテナンス業 |
| 従業員数 | 約25名 |
| 主な顧客 | 法人、工場、店舗、事務所 |
| 主な業務 | 修理、点検、見積、納期確認、資料送付 |
| 受付経路 | Gmail、電話、問い合わせフォーム |
| 利用ツール | Google Workspace、Excel、電話 |
| 主な相談 | 事務業務の負担と属人化を改善したい |
| AI活用状況 | 個人利用はあるが、業務には未定着 |
問い合わせ対応では、次のような悩みがあると想定します。
- メールや電話への対応に追われている
- 問い合わせ内容を読んで担当者を決める作業が特定の事務担当者に集中している
- 担当者が不在になると、振り分けや回答が遅れる
- 過去のメールや資料を探す時間が長い
- 誰がどの問い合わせに対応しているのか一覧で分からない
- Google Workspaceを十分に活用できていない
- AIを使いたいが、どの業務に使えばよいか分からない
この時点では、まだ問い合わせ対応を改善対象と決めているわけではありません。
まず、事務担当者が行っている業務全体を簡易的に確認します。
2.業務全体から改善対象を選ぶ
設備メンテナンス会社の事務担当者は、問い合わせ対応以外にも、見積作成補助、日程調整、資料送付、顧客情報管理、請求関連補助など、複数の業務を担当しています。
そこで、業務量、属人化、顧客への影響、改善可能性などを比較します。
| 業務 | 負担 | 属人化 | 顧客影響 | 改善余地 |
|---|---|---|---|---|
| 問い合わせ対応 | 高 | 高 | 高 | 高 |
| 見積作成補助 | 中 | 中 | 高 | 中 |
| 日程調整 | 中 | 中 | 高 | 中 |
| 資料送付 | 中 | 低 | 低 | 高 |
| 顧客情報更新 | 中 | 低 | 中 | 中 |
問い合わせ対応は、件数が多いだけでなく、顧客への初動や、その後の修理・点検業務にも影響します。
また、問い合わせの分類や担当者の判断が、特定の事務担当者の経験に依存していました。
そのため、最初の改善対象として、メールや問い合わせフォームから届く新規問い合わせの受付と初動対応を選定します。
今回の対象は、次のような通常の問い合わせです。
- 修理依頼
- 見積依頼
- 納期確認
- 資料請求
- 通常の施工後確認
一方、次のような案件は初期の対象外とします。
- クレーム対応
- 契約判断
- 金額の確定
- 納期の確約
- 夜間・休日の緊急対応
- 事故や安全上の問題を含む案件
- 電話だけで完結する依頼
対象を限定し、重要な判断を自動化しすぎないことが前提です。
3.現在の問い合わせ対応で起きている問題

現在の問い合わせ対応は、次のような流れになっていると想定します。
- 顧客から問い合わせメールが届く
- 事務担当者が受信箱を確認する
- 本文と添付資料を読む
- 問い合わせ内容を分類する
- 顧客情報や過去案件を確認する
- 担当部署・担当者を判断する
- 担当者へメールを転送する
- 担当者がメールと添付資料を再確認する
- 過去メールやGoogle Driveの資料を探す
- 必要に応じて技術担当者や上長へ確認する
- 返信文を作成する
- 顧客へ返信する
この流れを整理すると、次の問題が見えてきます。
問い合わせが通常メールに埋もれやすい
問い合わせ専用の管理方法がない場合、通常の連絡メールや社内メールの中に、修理依頼や見積依頼が混在します。
その結果、初動が遅れたり、対応漏れが起きたりする可能性があります。
分類と担当者判断が属人化している
同じ問い合わせでも、担当者によって分類や緊急度の判断が異なることがあります。
顧客、設備、地域、過去案件などを知っている事務担当者でなければ、誰に渡せばよいか分からない状態です。
同じ内容を複数人が確認している
事務担当者がメールを読んで要点を整理した後、案件担当者が同じメールを最初から読み直しています。
添付資料や過去履歴の確認も重複しやすく、初動までに時間がかかります。
過去情報が分散している
顧客とのメール、過去の見積、設備資料、修理履歴などが、GmailやGoogle Drive、個人の保存場所に分散しています。
必要な情報を探す時間が長く、担当者不在時には過去の経緯を把握しにくくなります。
対応状況と完了条件が見えない
問い合わせを誰が担当しているのか、顧客へ返信したのか、技術確認中なのかを一覧で確認できません。
また、「顧客へ一次返信したら完了なのか」「訪問や修理まで終わったら完了なのか」が明確でない案件もあります。
4.業務を整理して決めた改善方針
問題を確認した後、すぐにAIを導入するのではなく、現在の業務とルールを見直します。
今回の改善方針は次のとおりです。
問い合わせを一覧で管理する
メールやフォームから届いた問い合わせを、問い合わせ管理表へ登録します。
管理表では、顧客名、問い合わせ分類、緊急度、担当者、ステータスなどを一覧で確認します。
分類と担当者のルールを整理する
問い合わせの種類を、修理、見積、納期確認、資料請求などに分けます。
顧客、設備、地域などをもとに、担当部署や担当者を確認できる表も作成します。
通常案件と例外案件を分ける
通常の修理相談や資料請求は標準フローで処理します。
クレーム、事故、契約、金額、納期確約などを含む案件は、事務担当者や上長が優先して確認する例外案件として扱います。
必要な情報をまとめて担当者へ渡す
担当者へ元メールだけを転送するのではなく、次の情報をまとめて共有します。
- 顧客名
- 問い合わせ分類
- 問い合わせ内容の要約
- 緊急度候補
- 不足している情報
- 元メールへのリンク
- 添付資料
- 過去案件へのリンク
AIを使う範囲を限定する
AIの役割は、次の範囲に限定します。
- 問い合わせ内容の要約
- 問い合わせ分類の候補提示
- 緊急度の候補提示
- 不足情報の抽出
- 担当部署候補の提示
- 顧客への返信下書き
- 完了時の対応履歴要約
担当者、緊急度、金額、納期、契約、修理方法などの最終判断は人が行います。
5.改善後の問い合わせ対応

改善後は、次のような業務フローを想定します。
- 顧客から問い合わせメールまたはフォームを受信する
- Google Apps Scriptが新規問い合わせを検出する
- AIが問い合わせ内容を要約する
- AIが分類、緊急度、不足情報の候補を作成する
- 問い合わせ管理表へ自動登録する
- 事務担当者が内容を確認する
- 事務担当者が案件担当者を決定する
- GASが案件担当者へ通知する
- AIが顧客への返信下書きを作成する
- 案件担当者が内容を確認する
- 必要な場合は技術担当者へ確認を依頼する
- 技術担当者が判断結果を管理表へ記録する
- 案件担当者が返信内容を確認・修正する
- 人が顧客へ返信する
- 対応状況を管理表へ反映する
- 必要な対応が終了したら案件を完了にする
- 保存対象の案件だけ、AIで対応経緯を要約してGoogle Driveへ保存する
この仕組みの中心は、顧客への回答をAIに任せることではありません。
問い合わせ内容を整理し、担当者が判断しやすい状態を作ることが中心です。
人・自動化・AIの役割
| 役割 | 主な担当 |
|---|---|
| 人 | 最終分類、担当判断、技術判断、顧客送信、完了判定 |
| GAS・通常自動化 | 新着検出、管理表登録、通知、ラベル、進捗同期 |
| AI | 要約、分類候補、緊急度候補、不足情報、返信下書き |
| Gmail・Drive | 正式なメール履歴、添付資料、案件資料の保存 |
Gmailは顧客との正式なやり取りを残す場所として利用し、問い合わせ管理表は進捗管理に利用します。
6.最初のPoCで確認すること
最初から問い合わせ対応全体を自動化するのではなく、通常の修理依頼、見積依頼、納期確認、資料請求などに限定して試します。
PoCでは、次の仮説を検証します。
AIによる要約、分類候補、返信下書きによって、問い合わせ対応の初動時間を短縮しながら、対応品質を維持できるか。
主な確認項目は次のとおりです。
- メールの内容を把握する時間が短縮したか
- 問い合わせ分類の候補が実務で利用できたか
- 緊急案件や例外案件を見落とさなかったか
- 不足情報を正しく抽出できたか
- 担当者への通知が早くなったか
- 返信下書きが利用できたか
- 対応状況を管理表で把握できたか
- 担当者が継続して利用できる操作だったか
PoC後は、必ず本導入するわけではありません。
結果によっては、次のような判断も考えられます。
- 対象業務を限定して導入する
- AIは要約だけに利用する
- 分類ルールを見直して再検証する
- GASによる受付・管理・通知だけを導入する
- 業務整理だけ行い、AI導入は見送る
PoCは、AI導入を正当化するためではなく、実務で利用できるかを判断するために行います。
7.この想定事例で重要なポイント
今回の事例で重要なのは、AIを使って問い合わせ対応を完全自動化することではありません。
業務全体を確認し、顧客への影響、属人化、改善可能性などを比較したうえで、新規問い合わせの受付と初動対応を改善対象に選んでいます。
その後、問い合わせ分類、担当者、緊急度、例外案件、完了条件などを整理し、人、通常自動化、AIの役割を分けています。
特に重要なポイントは次のとおりです。
- 最初からAI導入を目的にしない
- 業務全体の中から改善対象を選ぶ
- 問い合わせの分類・担当・例外条件を整理する
- Gmailを正式な履歴として残す
- 問い合わせ管理表で進捗を見える化する
- AIに金額、納期、技術判断を任せない
- 人が最終判断と顧客への送信を行う
- 小さな範囲で検証してから対象を広げる
AIを導入すること自体ではなく、現場で継続して使える業務の仕組みを作ることが目的です。
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