建設会社では、現場監督や工事担当者が、施工管理だけでなく、工事写真の整理、日報作成、進捗報告、変更事項の共有など、多くの事務作業を行っています。
現場から送られてくる写真や報告の形式が統一されていないと、現場監督等が夕方や帰社後に情報を整理し、日報や週次報告書へ転記しなければなりません。
国土交通省が公表している中小建設業の事例でも、現場業務終了後に帰社して行う工事写真の整理が、柔軟な働き方を進めるうえでの障壁として挙げられています。建設業には2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されており、施工管理を含む業務の効率化が一層重要になっています。
本記事では、建築・改修工事を行う地域建設会社を想定し、業務全体を確認したうえで改善対象を選び、現場日報、工事写真、進捗報告に通常の自動化とAIを組み合わせる流れを紹介します。
1.想定する建設会社と相談内容
今回想定するのは、店舗、事務所、工場などの改修工事や小規模新築、修繕工事を行っている地域建設会社です。
| 項目 | 想定内容 |
|---|---|
| 業種 | 建築・改修工事会社 |
| 従業員数 | 約35名 |
| 主な工事 | 店舗・事務所・工場の改修、小規模新築、修繕 |
| 現場数 | 同時に5~10現場程度 |
| 主な関係者 | 現場監督、職長、協力会社、本社事務、工事部長 |
| 利用ツール | Gmail、Google Drive、Excel、スマートフォン、電話・チャット |
| 主な相談 | 現場日報、工事写真、進捗報告の負担を減らしたい |
| AI活用状況 | 個人利用はあるが、業務には未定着 |
現場では、次のような悩みがあると想定します。
- 工事写真がメールやチャットで送られてくる
- 写真だけでは、現場名、工種、撮影場所、撮影日が分かりにくい
- 日報の書き方や記載内容が担当者ごとに異なる
- 現場監督が夕方や帰社後に写真を整理している
- 日報、写真、工程表、図面が別々の場所に保存されている
- 本社や工事部長が複数現場の状況を一覧で確認できない
- 週次報告や顧客向け報告書を毎回作り直している
- 現場で発生した問題や変更事項が、電話や口頭連絡だけで終わる
- 必要な写真の不足に後から気付く
- 現場監督が本来の施工管理以外の事務作業に時間を取られている
この時点では、まだ日報や工事写真を改善対象と決めているわけではありません。
まず、営業・受注から工事完了までの業務全体を簡易的に確認します。
2.業務全体から改善対象を選ぶ
建設会社には、見積、工事準備、協力会社調整、資材手配、工程管理、安全管理、原価管理、完成書類作成など、さまざまな業務があります。
そこで、業務量、属人化、品質・顧客への影響、改善可能性などを比較します。
| 業務 | 負担 | 属人化 | 品質・顧客影響 | 改善余地 |
|---|---|---|---|---|
| 現場日報・工事写真・進捗報告 | 高 | 高 | 高 | 高 |
| 見積作成 | 高 | 高 | 高 | 中 |
| 協力会社との調整 | 高 | 中 | 高 | 中 |
| 資材手配 | 中 | 中 | 高 | 中 |
| 請求・原価集計 | 中 | 中 | 中 | 中 |
現場日報や工事写真は、単なる記録ではありません。
日々の進捗確認、社内報告、顧客への説明、完成書類の作成など、複数の業務で利用されます。
また、国土交通省の事例では、工程表、図面、工事写真をアプリ上で共有することで、限られた担当者しか把握していなかった情報を全社で共有できるようになった例も紹介されています。
そのため、最初の改善対象として、現場日報、工事写真、進捗情報の収集・整理・報告業務を選定します。
今回の対象は、次のような日常的な記録と報告です。
- 当日の作業内容
- 作業人数・協力会社
- 使用した資材や機材
- 工事写真
- 当日の進捗
- 翌日の予定
- 現場で発生した問題
- 変更事項・確認事項
- 本社や工事部長への日次・週次報告
一方、次の判断は初期対象外とします。
- 安全上の最終判断
- 品質検査の合否判定
- 法令適合性の判断
- 施工方法の決定
- 工程変更の最終承認
- 原価や追加工事金額の確定
- 発注者へ提出する正式書類の無確認提出
- AIによる施工品質や危険性の自動判定
AIや自動化は、情報の整理と報告作成を支援する範囲で利用します。
3.現在の現場報告業務で起きている問題

現在の業務は、次のような流れになっていると想定します。
- 現場担当者や協力会社がスマートフォンで写真を撮影する
- 写真をメールやチャットで現場監督へ送る
- 現場監督が写真の内容と撮影場所を確認する
- 作業内容、人数、進捗、問題点を聞き取る
- 写真を現場別・日付別に整理する
- Excelや文書ファイルで日報を作成する
- 必要に応じて工事部長や本社へ報告する
- 週末に日報をまとめて週次報告を作成する
- 完成時に必要な写真を探して写真台帳や報告書へ転記する
この流れを整理すると、次の問題が見えてきます。
写真と報告が複数の経路に分散している
写真はメール、チャット、個人のスマートフォンなどから送られます。
どの現場の、どの工種の、どの場所を撮影した写真なのかが分からず、後から確認が必要になります。
入力内容が担当者によって異なる
日報に作業内容だけを書く人もいれば、人数、問題、翌日の予定まで詳しく書く人もいます。
必要な情報がそろわず、現場監督が追加確認しなければならないことがあります。
同じ情報を何度も転記している
現場で報告した内容を、現場監督が日報へ入力し、その後、週次報告や顧客向け報告書へ再度転記しています。
工事件名や工期などの共通情報を複数書式へ繰り返し入力する負担に対し、国土交通省も共通項目を各書式へ自動反映する仕組みを提供しています。
問題や変更事項が記録に残りにくい
現場で発生した問題、設計変更、顧客からの依頼などが電話や口頭だけで共有されると、誰が何を判断したのか分からなくなります。
後から追加工事や工程変更の経緯を確認することも難しくなります。
複数現場の進捗が見えない
現場ごとに報告方法や保存場所が異なると、本社や工事部長は、それぞれの担当者へ確認しなければ状況を把握できません。
問題が発生している現場や、報告が滞っている現場を早期に把握しにくい状態です。
4.業務を整理して決めた改善方針
問題を確認した後、すぐに写真整理や報告書作成をAIへ任せるのではなく、現在の業務とルールを見直します。
今回の改善方針は次のとおりです。
現場報告の入力項目を統一する
現場担当者が報告する内容を、次のように整理します。
- 現場名
- 報告日
- 工種・作業場所
- 当日の作業内容
- 作業人数・協力会社
- 使用資材・機材
- 進捗状況
- 問題・変更事項
- 翌日の予定
- 添付する工事写真
自由記述だけにせず、選択項目と記述項目を組み合わせます。
写真に必要な情報を付けて登録する
写真を送るだけではなく、現場名、工種、場所、撮影日などの情報と一緒に登録します。
通常の自動化によって、現場別・日付別・工種別に保存できるようにします。
問題・変更事項を通常報告から分ける
日常的な作業報告と、次のような重要事項を分けます。
- 工程への影響
- 安全上の懸念
- 品質上の問題
- 図面・仕様との相違
- 顧客や設計者からの変更依頼
- 追加工事の可能性
- 資材や協力会社の手配問題
重要事項は、現場監督や工事部長へ優先的に通知します。
一度入力した情報を再利用する
現場で入力した内容を、日報、進捗一覧、週次報告、完成時の記録に再利用します。
同じ情報を複数の書類へ繰り返し入力する作業を減らします。
AIを使う範囲を限定する
AIの役割は、次の範囲に限定します。
- 日報内容の要約
- 進捗、問題、変更事項、翌日予定の抽出
- 複数の日報をまとめた週次報告の下書き
- 顧客向け進捗報告文の下書き
- 過去報告から関連情報を探すための整理
- 完了時の工事経緯の要約
安全、品質、施工方法、工程変更、金額などの最終判断は人が行います。
5.改善後の現場報告業務

改善後は、次のような業務フローを想定します。
- 現場担当者がスマートフォンから日報を入力する
- 現場名、工種、作業場所を選択する
- 作業内容、人数、進捗、問題、翌日の予定を入力する
- 工事写真を必要な情報とともに登録する
- 通常の自動化が写真と日報を現場別・日付別に保存する
- 日報一覧と進捗管理表を更新する
- AIが日報を要約する
- AIが問題、変更事項、翌日の予定を抽出する
- 重要事項がある場合は現場監督や工事部長へ通知する
- 現場監督が日報と写真を確認する
- 必要に応じて現場担当者へ追加確認する
- 承認した内容を本社や工事部長へ共有する
- AIが複数の日報から週次報告の下書きを作成する
- 人が確認・修正したうえで社内や顧客へ共有する
- 完成時には、日報と写真を完成書類作成に再利用する
この仕組みの中心は、AIによる施工管理ではありません。
現場から届く情報を整理し、現場監督や工事部長が、問題や進捗を確認しやすい状態にすることが中心です。
人・自動化・AIの役割

| 役割 | 主な担当 |
|---|---|
| 現場担当者 | 作業内容、人数、問題、予定、写真を登録 |
| 現場監督 | 内容確認、安全・品質・施工判断、報告承認 |
| 工事部長・本社 | 複数現場の進捗確認、支援、意思決定 |
| 通常自動化 | 保存、命名、一覧更新、通知、期限管理 |
| AI | 日報要約、問題・変更事項抽出、報告書の下書き |
| Drive・既存システム | 写真、図面、日報、報告書の正式な保管 |
既に施工管理システムを使用している場合は、新しい管理表を作ることから始めません。
既存システムに入力されていない情報、二重入力が発生している業務、本社報告へ再転記している部分などを確認し、既存環境を中心に改善します。
6.最初のPoCで確認すること
最初から複数の現場や完成書類全体を対象にするのではなく、1~2現場の日報・写真・日次報告に限定して試します。
PoCでは、次の仮説を検証します。
入力項目の統一、写真の自動整理、AIによる日報要約によって、現場監督の報告・確認時間を短縮しながら、必要な情報を漏れなく共有できるか。
主な確認項目は次のとおりです。
- 現場担当者が無理なく入力できたか
- 必要な日報項目がそろったか
- 写真を現場別・日付別に整理できたか
- 写真不足や入力漏れに早く気付けたか
- 現場監督の確認・整理時間が短縮したか
- 問題や変更事項を正しく抽出できたか
- 週次報告の下書きが実務で利用できたか
- 本社や工事部長が現場状況を把握しやすくなったか
- 安全・品質上の重要事項を見落とさなかったか
- 現場で継続して利用できる操作だったか
PoC後は、必ず本導入するわけではありません。
結果によっては、次のような判断も考えられます。
- 日報入力と写真整理だけ導入する
- AIは週次報告の下書きだけに利用する
- 入力項目を減らして再検証する
- 既存の施工管理システムの運用改善を優先する
- 通常の自動化だけ導入する
- 現場の入力負担が大きい場合は導入を見送る
PoCは、AI導入を正当化するためではなく、現場で継続して利用できるかを判断するために行います。
7.この想定事例で重要なポイント
今回の事例で重要なのは、AIを使って施工管理を自動化することではありません。
業務全体を確認し、現場監督の負担、情報の再利用性、品質や顧客への影響、改善可能性などを比較したうえで、現場日報、工事写真、進捗報告を改善対象に選んでいます。
国土交通省のi-Construction 2.0でも、施工管理やデータ連携のオートメーション化が取組の柱に位置付けられています。建設現場全体を一度に変えるのではなく、日報、写真、報告書のような身近な業務から情報連携を改善することも、その方向性に沿った取組といえます。
特に重要なポイントは次のとおりです。
- 最初からAI導入を目的にしない
- 業務全体の中から改善対象を選ぶ
- 現場で入力する情報を標準化する
- 日報、写真、進捗情報を一度の入力で再利用する
- 通常報告と重要な問題・変更事項を分ける
- 既存の施工管理システムがあれば、それを中心に考える
- AIに安全、品質、施工方法を判断させない
- 人が最終判断と報告の承認を行う
- 小さな現場・範囲で検証してから広げる
業務全体の棚卸し、改善対象の選定、現状業務の整理、AI・自動化の適用判断、PoC、本導入後の定着まで、企業の規模や状況に合わせて伴走します。
AIを導入すること自体ではなく、現場で継続して使える業務の仕組みを作ることが目的です。
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